○久留米市障害を理由とする差別をなくす条例
令和5年12月22日
久留米市条例第35号
目次
前文
第1章 総則(第1条―第6条)
第2章 差別の禁止(第7条―第9条)
第3章 差別解消のための体制(第10条―第16条)
第4章 差別解消のための施策(第17条―第24条)
附則
(前文)
私たちが暮らす久留米市は、人権尊重都市宣言を行い、あらゆる差別の撤廃をめざす人権擁護条例を制定するなど、人権尊重の基本的姿勢を示すとともに、差別をなくすための人権教育及び啓発活動を行っています。
国においても、障害者の権利に関する条約を批准し、障害者基本法をはじめとする国内法の整備を行うなど、障害を理由とする差別の解消に向け、取り組んできました。
しかしながら、障害を理由とする差別は、現在も日常生活や社会生活の様々な場面で表面化している状況にあり、障害を理由とする差別の解消が困難なことを示しています。
障害者の権利擁護及び地域共生社会の実現のためには、障害及び障害者に関する理解を深め、誰もが共に学び、分かり合うことが必要です。そして、私たちは、全て人は等しく基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられなければならないということを、改めて認識しなければなりません。
私たちはここに、市、事業者及び市民が協力し、障害を理由とする差別の解消の推進に取り組み、障害の有無によって分け隔てられることのない、互いに人格と個性を尊重し合い、支え合いながら共生する地域社会を実現することを決意し、この条例を制定します。
第1章 総則
(目的)
第1条 この条例は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。以下「法」という。)及びあらゆる差別の撤廃をめざす人権擁護条例(平成7年久留米市条例第22号)に基づき、障害を理由とする差別の解消を推進するために、基本理念を定め、市、事業者及び市民の責務を明らかにし、及び基本となる事項を定めることにより、障害の有無によって分け隔てられることのない、互いに人格と個性を尊重し合い、支え合いながら共生する地域社会の実現に寄与することを目的とする。
(1) 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。
(2) 社会的障壁 障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他の一切のものをいう。
(3) 不当な差別的取扱い 正当な理由なく、障害を理由として、障害者でない者と異なる不利益な取扱いをすることをいう。
(4) 合理的配慮 障害の有無に関わらず誰もが実質的に同等の日常生活又は社会生活を営むことができるよう、障害者又はその家族等(障害者が意思の表明を行うことが困難である場合に限る。)の求めに応じて、必要かつ適切な現状の変更又は調整を行うことをいう。ただし、社会通念上その実施に伴う負担が過重になるものを除く。
(5) 障害を理由とする差別 不当な差別的取扱いをすること又は合理的配慮をしないことをいう。
(6) 事業者 営利と非営利とを問わず、反復継続して商業その他の事業を行う者(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。)をいう。
(基本理念)
第3条 この条例による障害を理由とする差別の解消は、市、事業者及び市民が、次に掲げる事項を基本理念として、推進するものとする。
(1) 障害者が抱える本質的な問題は、障害と社会的障壁の相互作用によって創り出されているものであり、社会的障壁の除去は社会の責務であること。
(2) 障害は人類が持つ多様な個性の一つであるから、これを包含する地域共生社会を実現すべきこと。
(3) 全ての市民に人権が平等に存することを踏まえ、全ての障害者が障害者でない者と等しく基本的人権を享有する個人として尊重されるべきこと。
(4) 障害及び障害者への理解を深め、かつ、障害を理由とする差別に関する学びを継続する必要があること。
(5) あらゆる分野において社会的障壁の除去及び合理的配慮が行われ、誰もが暮らしやすい、共生のまちづくりが促進されること。
(6) 何人も、不当な差別的取扱いにより障害者の権利利益を侵害してはならないこと。
(7) この基本理念の考え方は、日常生活に限らず災害等の非常時の生活においても同様であること。
(市の責務)
第4条 市は、この条例の目的を達成するため、基本理念に基づき、障害及び障害者に関する理解を促進し、障害を理由とする差別の解消を推進しなければならない。
(事業者の責務)
第5条 事業者は、その事業を行うに当たっては、基本理念に基づき、障害及び障害者に関する理解を深め、障害を理由とする差別の解消に積極的に取り組まなければならない。
(市民の責務)
第6条 市民は、基本理念に基づき、障害及び障害者に関する理解を深め、障害を理由とする差別の解消に努めるとともに、互いに人格と個性を尊重し合い、支え合いながら共生する地域社会の実現に寄与するよう努めるものとする。
第2章 差別の禁止
(差別の禁止)
第7条 何人も、障害者に対し、あらゆる分野において、障害を理由とする差別を行ってはならない。
(不当な差別的取扱いの禁止)
第8条 市及び事業者は、次に掲げる不当な差別的取扱いにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
(1) 福祉サービスを提供する場合における次に掲げる取扱い
ア 提供を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を付けること。
イ 障害者の意思に反して、又はサービスの利用に関する適切な相談及び支援を行うことなく、障害者支援施設等への入所又は入居を強制すること。
(2) 医療を提供する場合における次に掲げる取扱い
ア 提供を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を付けること。
イ 障害者又はその家族等(障害者の意思を確認することが困難な場合に限る。)の理解を得るための十分な説明をせず、医療を受けることを強制すること。ただし、自傷行為又は他害行為のおそれがあり、法令に定めがある場合を除く。
ウ 障害者の退院に向けた協議又は検討をせず、社会復帰の促進を図らないこと。
(3) 教育、療育又は保育を行う場合における次に掲げる取扱い
ア 療育又は保育が受けられるようにするために必要な指導又は支援を行わないこと。
イ 本人及び保護者の意見を聴かず、意思を尊重せず、又は必要な説明をせず就学する学校を決めること。
ウ 受験又は入学を拒否し、若しくは制限し、又はこれらに条件を付けること。
エ 授業又は行事への参加を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を付けること。
(4) 労働者を雇用する場合における次に掲げる取扱い
ア 応募又は採用を拒否し、若しくは制限し、又はこれらに条件を付けること。
イ 賃金、労働時間、配置、昇進、教育訓練、福利厚生その他の労働条件について不利益な取扱いをすること。
(5) 商品を販売し、又はサービスを提供する場合において、これらを拒否し、若しくは制限し、又はこれらに条件を付けること。
(6) 不動産の取引をする場合において、売買、賃貸、転貸又は賃借権の譲渡を拒否し、若しくは制限し、又はこれらに条件を付けること。
(7) 現に不特定多数の者の利用に供されている建物その他の施設又は公共交通機関を利用する場合において、利用を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を付けること。
(8) スポーツ、文化芸術活動その他の生涯学習活動を実施する場合において、参加を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を付けること。
(9) 障害者へ情報の提供をする場合又は障害者から意思の表示を受ける場合における次に掲げる取扱い
ア 情報の提供を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を付けること。
イ 障害者から意思の表示を受けることを拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を付けること。
(10) 災害発生時において、避難所又は仮設住宅等の利用を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を付けること。
(11) 前各号に掲げるもののほか、障害者でない者と異なる不利益な取扱いをすること。
(合理的配慮の提供)
第9条 市及び事業者は、その事務若しくは事業を行い、又は障害者を雇用するに当たっては、合理的配慮をしなければならない。
2 市及び事業者は、合理的配慮の提供に当たっては、障害者及び市又は事業者の双方の建設的対話を通して対応するよう努めるものとする。
第3章 差別解消のための体制
(相談)
第10条 市は、障害を理由とする差別に関する相談(以下「差別相談」という。)に的確に対応するため、法第14条の規定に基づき、相談及び紛争解決のための体制整備を図るものとする。
2 障害者及びその家族その他の関係者(以下「障害者等」という。)又は事業者は、市に対し、差別相談を行うことができる。
3 市は、差別相談を受けた場合には、必要に応じて、調査又は事実の確認を行い、次に掲げる対応を行うものとする。
(1) 情報提供、説明又は助言
(2) 差別相談に係る当事者間の調整
(3) 関係行政機関に対する通報その他必要な通知
(4) 第12条第1項に定める助言又はあっせんの申立ての支援
4 差別相談の相手方となる事業者は、障害者等が差別相談を行ったことを理由として、事業の利用を禁止し、若しくは制限し、又は不利益な取扱いをしてはならない。
5 市は、差別相談に係る業務の全部又は一部を障害者の相談支援を行う者に委託することができる。
(障害者差別解消調整委員会)
第11条 市長の附属機関として、久留米市障害者差別解消調整委員会(以下「委員会」という。)を置く。
2 委員会は、障害者等の求めに応じて、差別相談に係る事案の解決を図るための助言又はあっせんを行う。
3 委員会は、委員7人以内をもって組織する。
4 委員は、次に掲げる者の中から市長が委嘱する。
(1) 障害者等が組織する団体(以下「当事者団体」という。)を代表する者
(2) 障害者に関する法令又は制度に基づく権利擁護の専門的知識を有する者
(3) 学識経験者
(4) その他市長が必要と認める者
5 委員の任期は、2年とする。ただし、補欠委員の任期は、前任者の残任期間とする。
6 委員は、再任されることができる。
7 委員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も同様とする。
8 前各項に定めるもののほか、委員会の組織及び運営に関し必要な事項は、規則で定める。
(申立て)
第12条 障害者等は、差別相談によって事案が解決しないと思料するときは、委員会に対し、必要な助言又はあっせんを行うよう申立てをすることができる。ただし、当該申立てをすることが当該障害者の意思に反することが明らかであると認められる場合は、この限りでない。
2 前項本文の規定は、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)第74条の5に規定する紛争については適用しない。
(申立てに係る調査又は審議)
第13条 委員会は、前条第1項の申立てがあったときは、当該申立てに係る事実について必要な調査又は審議を行うものとする。
2 委員会は、前項の調査又は審議を行うために必要があると認めるときは、当事者その他の関係者に対し、その出席を求めて説明若しくは意見を聴き、又は資料の提出を求めることができる。
3 当事者その他の関係者は、正当な理由がある場合を除き、前項の規定による委員会の求めに協力しなければならない。
(助言又はあっせん)
第14条 委員会は、前条第1項の調査又は審議を終えたときは、当事者その他の関係者に対し、助言又はあっせんを行うものとする。ただし、助言若しくはあっせんを行う必要がないと認めるとき、又は事案の性質に照らし助言若しくはあっせんを行うことが適当でないと認めるときは、この限りでない。
(1) 当事者が助言に従ったとき、又はあっせん案を受諾したとき。
(2) 当事者が助言に従わない旨又はあっせん案を受諾しない旨の意思を表明したとき。
(3) 助言又はあっせんを継続することが困難であるとき、又は適当でないと認めるとき。
3 委員会は、申立てへの対応結果を当事者に通知するとともに、市長に報告するものとする。
(措置の求め)
第15条 委員会は、助言又はあっせんを終了した場合において、第12条第1項の申立てに係る事案が解決せず、かつ、その態様が悪質であると認めるときは、市長に対し、必要な措置を講ずるよう求めることができる。
(勧告等)
第16条 市長は、前条の規定による求めがあったときは、当事者その他の関係者に対し、差別相談に係る事案の解決に必要な措置を講ずるよう勧告することができる。
2 市長は、前項の規定による勧告を受けた者が、正当な理由なく、当該勧告に従わないときは、その旨を公表することができる。この場合において、市長は、あらかじめその者に意見を述べる機会を与えなければならない。
第4章 差別解消のための施策
(施策の推進)
第17条 市は、この条例の目的を達成するため、久留米市障害を理由とする差別の解消に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を定めるものとする。
3 市は、基本方針に基づく施策の企画立案、実施状況、推進方針等について、法に基づき設置する久留米市障害者差別解消支援地域協議会から必要な意見の聴取を行い、施策への反映に努めるものとする。
(啓発及び理解促進)
第18条 市は、障害及び障害者に関する理解及び関心を深めるため、当事者団体等と連携し、次に掲げる施策を行うものとする。
(1) 市民及び事業者への広報及び啓発活動
(2) 市の職員等への研修
2 市は、障害の有無に関わらず、全ての人が相互理解を深めることができる機会、交流の場及び情報の提供を行うものとする。
3 市は、障害者等が、本来享受できる権利について、正しく理解するための学びの場の確保を推進するものとする。
(情報の発信及び取得環境)
第19条 市は、障害者が市政等に関する情報を取得できるよう発信及び取得環境の整備に努めるものとする。
(教育及び保育の促進)
第20条 市は、障害のある幼児、児童及び生徒が、可能な限り、障害のない幼児、児童及び生徒と共に保育又は教育を受けられるよう、教育機関その他の関係機関との調整に努めるものとする。
2 市は、前項の調整において、医療機関、福祉施設その他の関係機関と連携し、障害のある幼児、児童及び生徒への支援又は教育機関等への支援を行うものとする。
(意思疎通支援)
第21条 市は、視覚・聴覚障害(盲ろうを含む。)、発語障害、知的障害、発達障害その他の障害におけるコミュニケーションの特質に応じた意思疎通手段(手話、点字、音声、文字の表示、読み仮名の表示、分かりやすい表現を用いた表示、絵図を用いた表示、情報支援機器その他必要とされる適切な手段をいう。)の利用を図り、意思疎通支援の取組を推進するものとする。
2 市は、意思疎通支援者(手話通訳者、要約筆記者等の意思疎通を支援する者をいう。以下同じ。)の社会資源としての確保及び整備を進めるため、意思疎通支援者の養成及び活動の推進を図るものとする。
(相談体制の充実)
第22条 市は、障害を理由とする差別に関して、第10条に規定する差別相談の体制整備のほか、地域における相談体制の充実を図るものとする。
2 市は、前項の相談体制の充実のため、特に次に掲げる事項について推進するものとする。
(1) 相談者にとって身近な相談窓口又は相談しやすい場の確保
(2) 障害者を含む相談員の確保
(3) 個人情報の適正な管理のもとにおける、市と相談支援事業所又は当事者団体等との差別相談に関する連携
(4) 事業者からの合理的配慮の提供等に関する相談窓口の確保
(事前的改善措置)
第23条 市又は事業者は、自ら所有し、又は管理する施設を整備する場合は、社会的障壁の除去及び合理的配慮を実施するため、必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
(災害への備え)
第24条 市は、災害に備えるため、当事者団体、地域活動団体、事業者等と連携し、障害特性に対応した防災情報の発信及び防災講座等の開催を促進するものとする。
附則
この条例は、令和6年4月1日から施行する。